もともとファッション好きのオリーブ少女だった大籠は、東京の魅力もわかった上で、東京から遠く離れた広い土地で、ものづくりを進めています。
宝島染工は、2001年に代表の大籠千春が生まれ育った福岡の土地で始まりました。いくつかの染色会社を経験したのち、天然染めを様々なメーカーから請け負う工房としてスタートさせたのです。
天然染めを、個人作家としてではなく、より多くの人に届ける中量生産で行うことが、大籠の考えでした。
「細々とでも長続きするやり方」を模索して、できる限り合理的に言葉や数字にしながら「自分でなくてもできる」作り方を、一つひとつ探り当ててきました。
効率化しながら、ものとしての価値を上げていくことを試みてきたのです。
オリジナルラインをスタートしたのは2012年。
その頃、大小様々なメーカーの染めを請け負う中で、ファッションの流れがどんどん速く短くなり、提案するスピードを早くしないと、どんどん話が変わっていくと実感していました。
デザインする過程では、決定する要素のうち、「色」は10-15%に満たないかもしれないとしても、そこを先に提案すれば即決となることも多いと気づき、具体的な発注を待つのではなく、提案型にしようと決めました。
その提案型のわかりやすいプレゼンテーションの形ともなり、発注を待たずに仕事をつくる一つの軸ともなったのが、オリジナルラインです。
「服は、デジタルで設計できてオンラインで買えるけれど、着て触れて感じる、というアナログから抜け出すことはできないものですよね。いい服を着ることで幸福感をもらえたり、自分を着替えさせてくれたりする。自分を飾ってくれる、というのは、着飾る、というようなマイナスの響きではなくて、とても大切なことだと思います。私も、仕事中は毎日同じでも構わないけれど、お休みの日は、自分を少し変えてくれる服を着たい。新しい服に袖を通したり、会う人に合わせて選んだりすることが好きです。」
染めはこんな風に楽しめる。こんな風に自由に、服に乗せていくことができる。
そしてこんなに美しい。
福岡の田園地帯から発信するメッセージが、響き始めたのでした。
「TとA」の個性が、風をはらんだやわらかな大らかさを持つ背景に、「T」宝島染工のカラッときっぱりしたものづくりへの姿勢があって、健やかなムードを運んでくれるのかもしれません。
撮影:HAL KUZUYA
構成:森 祐子